軸配位子を利用した分子状複合集積体の構築とその性質

 サドル型[Mo(DPP)(O)(H2O)]+は、サイズ、形状、及び電荷が明確に制御できるヘテロポリ酸の末端オキソ配位子と、配位子交換反応を経て直接配位結合を形成し、複合集積分子として「ポルフィリンハンバーガー」を生成する。これはサドル型歪みによるMo(V)中心のルイス酸性の高さによって実現されると考えられる(Chem. Commun. 2007, 3997 (Selected as a Cover Picture); Highlighted in Chem. Sci. 2007, 4, C58)。ポルフィリンハンバーガーはベンゾニトリルなどの溶液中でも安定にその構造を保持し、可逆な多段階の酸化還元挙動を示す(Inorg. Chem. 2010, 49, 11190)。

 Sn(IV)-DPP錯体は、その強い軸配位と電子供与体としての機能を利用して、光機能性複合集積体の構築に有効である。我々は、ピリジンカルボン酸を軸配位子とするSn(IV)DPP錯体をカルボキシラト架橋三核Ru(III)-オキソクラスターに結合させた、複合集積分子を構築した。その複合体内では、Sn(IV)DPPサイトからルテニウムクラスターへの非断熱的光誘起電子移動が進行する。面白いことに、その複合体では、電子移動における再配列エネルギーが小さいため、Sn(DPP)部位からRu三核クラスターへの電子移動も、その逆電子移動もMarcusの逆転領域で進行する(Chem.–Eur. J. 2010, 16, 3646;下図)。一方、電子受容体としてケギン型ヘテロポリ酸を用いた場合、1:1錯形成が起こった後に光誘起電子移動が進行することを見いだした(J. Phys. Chem. A 2011, 115, 986)。 さらに、カルボキシル基を有するジプロトン化DPP誘導体を電子受容体とする場合、長寿命の3重項電子移動状態が形成される(J. Phys. Chem. C 2010, 114, 14290)。



ポルフィリンハンバーガー(Porphyrin Hamburger)

[{Mo(DPP)(O)}2(H2SiW12O40)]の結晶構造。

これまでに、光誘起電子移動の電子供与体としてほとんど利用されてこなかった、Al(III)-ポルフィリン錯体の高いルイス酸性を利用して、軸配位に基づくより安定な電子供与体ー電子受容体dyadsを合成し、その光誘起電子移動特性を明らかにした。Al(III)ポルフィリンサイトから軸配位した電子受容体(キノン類)への光誘起電子移動は、軸配位子の結晶中での配向によらず、断熱的電子移動過程で進行することが明らかとなった(Chem.–Eur. J. 2011, in press;下図)。

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