ルテニウム–TPA錯体の構造と性質

 ルテニウム錯体は、幅広い酸化数を安定にとりうるため、幅広い反応性や物性を示す。また、ルテニウム錯体における4d軌道の配位子場分裂は、同族第一周期遷移金属イオンである鉄イオンの3d軌道の分裂に比べて約1.5倍大きく、6配位八面体構造のRu(II)及びRu(III)は低スピン状態しかとらない。その4d軌道の空間的広がりは3d軌道のそれよりも大きく、エネルギー的にもルテニウムのdπ軌道は複素環配位子のπ*軌道に近い。そのため、ルテニウム中心のdπ軌道から複素環配位子のπ*軌道へのπ逆供与が効率よく起こり、その結果、複素環配位子との安定な錯形成が可能となる。

 三脚型ピリジルアミン配位子である、トリス(2−ピリジルメチル)アミン(TPA)は、ルテニウムイオンと安定な錯体を形成する。このとき、TPAの三級アミノ基はσ—ドナーとして、ピリジン環はσ—ドナーとしてだけではなくπ—アクセプターとしてルテニウムイオンに配位する。この電子的性質がルテニウム周りの配位環境を制御している(Inorg. Chem. 1998, 37, 4076)。

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