配位圏内における分子運動の制御:双安定性の創出

分子の双安定性は、生体内での機能制御、分子機能のon-offに重要な要件となる。このような双安定性を示す金属錯体はほとんどなく、金属錯体の機能性を拡張する上で非常に重要である。

 ルテニウム(II)ーTPA—アロキサジン錯体及びルテニウム(II)ーTPA—ジイミン錯体は、光と熱によりその構造を可逆的に異性化させることができる(J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 1556)。

一方、ルテニウム(II)-TPA-ジイミン錯体では、熱により構造変化を伴う不可逆的なTPAの部分解離が進行し、光により可逆的に同じ構造変化が進行する(Inorg. Chem. 2004, 43, 2243; Chem.-Eur. J. 2008, 14, 8904)。現在、この構造変化に基づく酸化触媒作用の制御について研究を行っている。

また、複素環補酵素を配位子とするRu(II)-TPA錯体においても、光と熱による可逆的な構造変化を見いだし、その反応機構を明らかにしている(J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 1556; Chem.–Eur. J. 2011, 17, 6652)。

テトラピリドフェナジン(tpphz)をジイミン配位子として有するRu(II)-TPA錯体は、もう一方のジイミンサイトにRu(II)錯体やPd(II)錯体が配位すると、100%の可逆性でフォトクロミックな構造変化を示す(Chem.–Eur. J. 2013, 19, 8978.)。これは、金属イオンの配位によって、”Closed form”の三重項MLCT励起状態のエネルギー準位が低下し、”Closed form”から“Open form”への光解離を抑制していることに起因する。


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