筑波大学 数理物質系 化学域 中村グループ(超分子化学)

中村グループ 研究概要

 タンパクなどの天然のレセプターは,多数のアミノ酸残基に囲まれたポケットで,水素結合などの比較的弱い相互作用を組合せて選択的な基質結合を実現しています。一方で,人工的に設計した分子で,天然のレセプターのように多数の相互作用部位を非対称に配置して分子を認識することは難しい課題です。
 当研究グループでは,(A) 金属錯体ユニットの集積,そして (B) 構成要素の非対称化 という2つのアプローチで,斬新な設計に基づき,精密な分子認識を実現する人工レセプターを開発しています。

研究コンセプト

 金属との配位結合は,エネルギーが大きく,可逆性・化学選択性に優れることから,強力な分子捕捉の手段として有望です。しかし,反応性の高い配位サイトを残したまま金属を秩序的に集積することには困難が伴います。当研究グループでは,剛直な骨格の内孔に金属の配位サイトを集積した大環状錯体を開発し,その機能を研究しています。このような分子は多数の金属との配位結合や金属錯体の剛直性を活かした精密な分子捕捉を実現できます。
 また,既存の人工レセプターの多くは同一の繰返し単位からなるホモ多量体です。通常,その構造は対称性が高く,他の分子に対して等方的に相互作用を及ぼすと考えられてきました。当研究グループでは,同一の繰返し単位を有しつつも,各単位が差別化された非対称な構造をもつ人工レセプターを開発し,研究しています.このような分子は,タンパクの認識ポケットを彷彿とさせるような非対称に配置された相互作用部位を利用して,精密な多点認識を実現できます。

 これらの分子は,分子認識に基づくセンサーや分離精製などの用途のみならず,分子捕捉能を活かした選択的反応を実現する場として,将来の発展が大いに期待されます。

代表的分子
  1. Hexapap:多点配位結合で分子を捕捉するレセプター
    (a) Nature Commun., 8, 129 (2017). (論文) (プレスリリース)
    (b) Chem. Commun., 55, 2421-2424 (2019). (論文) (Inside Front Cover)
    (c) Eur. J. Inorg. Chem., 308-313 (2021). (論文) (Cover Feature)
    (d) Inorg. Chem., 62, 12886-12894 (2023). (論文) (Supplementary Cover)
  2. Bpytrisalen:異種の配位サイトを精密集積した大環状錯体
    (a) Inorg. Chem., 58, 7863-7872 (2019). (論文) (Supplementary Cover)
  3. Saloph-belt:双腕型両官能性単量体から合成されるベルト状大環状錯体
    (a) J. Am. Chem. Soc., 141, 6462-6467 (2019). (論文)
  4. Amide-cyclodextrin:アミド基の非対称配置を活かした分子認識
    (a) Chem. Commun., 55, 3872-3875 (2019). (論文) (Inside Front Cover)
    (b) Chem. Lett., 49, 493-496 (2020). (論文)
    (c) Angew. Chem. Int. Ed., 60, 3080-3086 (2021). (論文)
総説・解説
  • “多点での配位結合によって分子を捕捉する超分子錯体”
    Bull. Jpn. Soc. Coord. Chem., 70, 39-42 (2017).
  • “ユニークな形状をもつ環状多量体の合成と分子捕捉 --分子の非対称化に着目した超分子化学”
    化学と工業, 72, 1053-1054 (2019).
  • “Development of Artificial Receptors Based on Assembly of Metal Complex Units and Desymmetrization of Molecular Components”
    Chem. Lett., 50, 1822–1830 (2021). (Award Highlight Review) (論文) (Inside Cover)

研究室紹介動画 (English) (2022年3月公開)

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