研究内容


私どもの研究室では、生体分子の機能と構造との関係を生物無機化学の観点から分子レベルで明らかにする研究を行っている。主な研究テーマは次の通りである。なお、いくつかのテーマについては、学内外の研究グループと共同で研究を進めている。



1. 耐熱性ヘムタンパク質の研究
 好熱性水素細菌(Hydrogenobactor thermophilus)由来のシトクロムc552 (HT) と緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来のシトクロムc551 (PA)を用いて、構造と機能の相関を明らかにすることを目的に研究を進めている。2つのシトクロムcは、立体構造は類似しているが熱安定性が大きく異なる。そこで、。2つのシトクロムcのアミノ酸配列と3次構造を比較し、さまざまな変異体を遺伝子工学的手法により構築し、NMRを用いた構造解析の結果と、熱安定性(Vis、高圧CDスペクトル)や標準酸化還元電位(サイクリックボルタングラム)などの機能解析の結果を対比させなが研究を進めている。

 酸化型シトクロムc1H NMRスペクトルでは、ヘム側鎖メチルプロトンは、常磁性シフトにより、通常のプロトンシグナルが観測される領域(0 - 10 ppm)より低磁場に分離して観測される。このヘムメチル側鎖プロトンシグナルは、ヘム近傍の電子状態を鋭敏に反映する。このことを利用して、PA変異体の軸配位子Metの配向を決定した。

 シトクロムcは、電子伝達タンパク質であるので、標準酸化還元電位の測定が重要な機能評価の指標となる。そこで、PA変異体の標準酸化還元電位をサイクリックボルタンメトリーにより決定し、常磁性シフトしたヘムメチルプロトンの化学シフトの解析と組み合わせることにより、標準酸化還元電位がヘム側鎖プロピオン酸基の解離とタンパク質の安定性により決定されることを明らかにした。

 また、リボソームで合成されたポリペプチド鎖から正しい構造のタンパク質にフォールディングする過程の解明は、タンパク質化学における重要な課題の1つである。しかし、フォールディングは非常に早い反応であり、解析が困難である。そこで、変性剤を添加し、タンパク質の立体構造がほどける過程(アンフォールディング)の解析が行われている。私どもも、1H NMRスペクトルの解析により、塩酸グアニジンで変性させたPAの変性中間体の解析を進めており、軸配位子としてHisとH2Oが配位した6配位高スピン中間体とH2Oのとれた5配位高スピン中間体が存在し、それらが互いに交換していることを明らかにした。

2.19F NMRによるヘムタンパク質の研究


 これまで解析が困難であった酸化/スピン/配位状態のヘムタンパク質のヘムの電子構造を19F NMRにより解析し、機能との相関関係を解明することにより、ヘムタンパク質における機能調節の分子機構を明らかにすることを目的に研究を進めている。

 19F NMRは、1H NMRよりも解析が容易なスペクトルが得られ、シグナルの観測感度は1H NMRに匹敵するほど高い上に、、電子構造変化に対しては1H NMRよりも鋭敏である。フッ素をもつヘム(上図 2-MF, 7-PF)をミオグロビンやヘモグロビンに導入すれば、19F NMRの長所を活かして、活性部位であるヘム近傍の電子構造の解析が可能になる。本研究は、長岡工業高等専門学校の鈴木秋弘先生との共同研究である。

 19F NMRにより、再構成ミオグロビンに存在する2つの配向異性体における酸塩基平行反応の熱力学と動力学を明らかにすることに成功した。



3. ヘム-核酸複合体の創製に関する研究
 ポルフィリン化合物はDNAと複合体を形成することが知られている。私どもは、カチオン性ポルフィリンTMPyPと二重鎖DNAや四重鎖DNAが形成する複合体の構造を解析し、両者で作用する分子認識について明らかにする研究を行っている。また、ヘムと四重鎖DNAが形成する複合体の構造と外部配位子の結合反応などの機能の解明も行っている。本研究は、ヘム-核酸複合体を新規な機能性核酸分子として利用するための分子設計の指針を得るために進めている。

 TMPyPは、二重鎖DNA d(GCTTAAGC)2 の主溝に結合定数は2.5x106 M-1で1:1で配位していることを明らかにした。これまで、TMPyPは二重鎖DNAの腹腔に結合すると考えられてきたが、私どもの研究によりTMPyPは主溝にも結合することが始めて示された。

 DNAは、一般に知られている二重鎖DNAの他にさまざまな構造をとる。その中で、真核生物の染色体DNAの末端部分(テロメア)には、連続したグアニン(G)を含む数塩基からなる繰り返し配列が存在し、細胞寿命に関与していると考えられている。ヒトの場合、d(TTAGGG)という繰り返し配列が約1万塩基対存在している。このテロメア部位では、Hoogsteen型塩基対によって4つのグアニンがG-カルテットと呼ばれる構造を形成し、G-カルテットがπ-πスタッキング相互作用することにより、四重鎖DNA構造を形成している。G-カルテットのπ平面とポルフィリン環のπ平面は、サイズがほぼ等しいので、π-πスタッキング相互作用によりをポルフィリン誘導体と四重鎖DNAは安定な複合体を形成することが期待される。そこで、TMPyPやヘミンと四重鎖DNA (d(TTAGGG))4が形成する複合体の構造と機能の解析を行っている。また、四重鎖DNA (d(TTAGGG))4は、3'-末端のG-カルテットの分子間でのπ-πスタッキング相互作用により二量体を形成することを明らかにし、その熱力学パラメータを決定した。


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2017.4.10 更新