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宮川助教の最近の研究

超音波—重力複合場中のマイクロ粒子解離挙動に基づく微量計測

ガラス基板に固定化したマイクロ粒子に超音波定在波を鉛直方向に発生させると、粒子には下記の音響放射力(Fac)、沈降力(Fsed)という力が働く。音響放射力は電圧印加により増加し、Fac+Fsed>Fbind(ガラスと粒子の結合力)のときに、粒子はガラス基板上から解離する。この粒子解離に必要な電圧は以下の式で与えられる。


この式は、密度の異なる粒子が異なる電圧でガラス基板から解離することを意味している。つまり、反応を介してマイクロ粒子に密度変化を起こせば、解離する電圧が変わることがわかる。これまでに、マイクロ粒子と金ナノ粒子の反応を解離電圧の変化として計測することで、zmol(10-21mol)オーダーの検出限界を達成した。
これまでに、20塩基DNAの計測を行っており、zmol(数千分子)の検出が可能であることを示している。上記式から、電圧とFbindに相関があることがわかる。結合力はまた結合の平衡定数と相関があるため、粒子が解離する電圧から粒子-ガラス基板間の分子の平衡定数を半定量できると考えた。結果として、102-107 M-1の領域で平衡定数を半定量できることを示した。
ガラス基板とマイクロ粒子間のDNAの結合様式を、ターゲットDNAの導入により直接結合からサンドイッチ結合に変わるように設計する。この際に、Fbindが変わるようにDNAの塩基配列を設計することで、ターゲットDNAの検出が可能であることを示した。これによりpM-μMの広範な検出領域で、pMオーダーの検出限界を達成した。



1.A. Miyagawa*, K. Oshiyama, S. Nagatomo, K. Nakatani, Zeptomole Detection of DNA Based on Microparticle Dissociation from a Glass Plate in a Combined Acoustic-Gravitational Field., Talanta 2022, 238, 123042. [Featured Article] [Front Cover]
2.A. Miyagawa*, K. Oshiyama, S. Nagatomo, K. Nakatani, Semi-Quantification of the Binding Constant Based on Bond Breaking in a Combined Acoustic–Gravitational Field, Analyst 2022, 147, 4735-4738.
3.A. Miyagawa*, K. Oshiyama, S. Nagatomo, K. Nakatani, Biosensing of DNA through difference in interaction between microparticle and glass plate based on particle dissociation in a coupled acoustic-gravitational field., Talanta 2024, 268,125369.

分子クラウディング環境中の分子反応の解明

細胞中では、高濃度のタンパク質や核酸、糖などが込み合って存在しており、このような環境を"分子クラウディング"という。この分子クラウディング環境下では、分子の熱力学的および速度論的挙動がバルク環境とは異なることが知られている。これには、排除体積効果、浸透圧、粘度、高分子の構造安定化など様々な要因が考えられているが、未だ解明されていない。宮川らは構造変化をしない小分子の反応系に着目し、研究を行っている。

分子クラウディング環境中の金属イオンとオキシン分子の錯形成反応において、PEG200 50vol%を用いたところ、全錯形成定数が48倍増加した。また、新たな理論モデルを考案し、この錯形成定数の上昇が主に「排除体積効果」と「浸透圧」にあることを明らかにした。
他にも分子クラウディング中の分子の酸解離挙動は浸透圧の変化による水の活量の変化で説明できること、TPPSのJ会合体形成が排除体積効果と立体障害の兼ね合いで促進または抑制されることを明らかにした。 さらにこの分子クラウディング効果は水中での有機合成反応に応用した。PEG200濃度の増加により、ハンチュピリジン反応の速度定数が増加したのちに減少することを明らかにした。これは、上述のモデルによる解析により、排除体積効果が速度定数の増加に、浸透圧の効果が減少に寄与することがわかった。排除体積効果が優位なときには反応速度が上昇する一方で、浸透圧の効果が優位になったときに、減少に転じることがわかった。このことから、分子クラウディング環境を用い、有機合成反応速度を制御できることが示唆された。


1.A. Miyagawa*, H. Komatsu, S. Nagatomo, and K. Nakatani, Effect of Molecular Crowding on Complexation of Metal Ions and 8-Quinolinol-5-Sulfonic Acid., J. Phys. Chem. B 2021, 125, 9853-9859. [Supplementary Cover]
2.A. Miyagawa*, H. Komatsu, S. Nagatomo, and K. Nakatani, Acid Dissociation Behavior of 8-Hydroxyquinoline-5-Sulfonic Acid in Molecular Crowding Environment Modeled Using Polyethylene Glycol., J. Mol. Liq. 2022, 360, 119526.
3.A. Miyagawa*, K. Nakatani, J-aggregation of 5, 10, 15, 20-tetraphenyl-21H, 23H-porphinetetrasulfonic acid in a molecular crowding environment simulated using dextran., Anal. Sci. 2022, 38, 1505-1512. [Hot Article]
4.A. Miyagawa*, H. Komatsu, S. Nagatomo, and K. Nakatani, Thermodynamic Complexation Mechanism of Zinc Ion with 8-Hydroxyquinoline-5-Sulfonic Acid in Molecular Crowding Environment., J. Mol. Liq. 2022, 372, 121181.
5.A. Miyagawa*, Y. Ueda, K. Nakatani, Molecular Crowding Effect in Hantzch Pyridine Synthesis in Polyethylene Glycol Aqueous Solution., Phys. Chem. Chem. Phys. , 2024, in accepted.

ゼータ電位測定によるマイクロ粒子表面修飾分子の計測

溶液中では荷電した粒子表面にはイオンが吸着し、見かけ上イオンが粒子表面に固定化される"固定層"が形成される。この固定層の影響を受けるため、粒子表面の真の電荷を直接計測することは困難である。しかし、この固定相付近の"すべり面"と呼ばれる領域の電位の計測は可能で、この電位をゼータ電位と呼ぶ。ゼータ電位(ζ)は下記の式の通り、粒子表面の電荷(σd)と相関がある。


この式は、粒子表面電荷の変化を誘起できれば、ゼータ電位の変化として検出できることを意味している。実際にカルボン酸修飾マイクロ粒子にタンパク質を結合させ、ゼータ電位の変化とタンパク質の結合量から、粒子表面タンパク質の微量計測が可能であることを明らかにした。検出限界は、マイクロ粒子1つあたり数万分子程度であり、BSA,ミオグロビン,リゾチームの3種のタンパク質についてzmol検出を達成した。
また、この研究の過程で、粒子表面にタンパク質を修飾させる際にEDC/NHS反応を用いていたが、DMT-MMと呼ばれる試薬を用いたほうが効率よく粒子表面上にタンパク質修飾が可能であることを見出した。DMT-MMを用いて修飾したタンパク質結合粒子の評価を吸収分光およびゼータ電位によって行い、先行研究の結果と一致することを示した。
粒子を生体内に導入すると、タンパク質が粒子表面に吸着し、粒子の機能性を変化させることが知られている。このような粒子表面上のタンパク質吸着層は「タンパク質コロナ」と呼ばれる。負電荷を帯びている粒子に対し、タンパク質を吸着させ、その吸着量をゼータ電位測定と吸収分光により評価した。ゼータ電位測定によるタンパク質の吸着挙動は、Langmuir型の吸着等温線に従い、単層吸着していることが示唆された。一方で、吸収分光測定から得られた結果は多層吸着を示しており、矛盾した結果となった。ゼータ電位は最外殻表面の電位を反映しており、多層吸着の場合であっても、単層吸着をみなされてしまう可能性があることを明らかにした。つまり、ゼータ電位測定により吸着挙動を評価する場合は注意が必要である。


1.K. Hagiya, A. Miyagawa*, S. Nagatomo, K. Nakatani, Direct Quantification of Proteins Modified on Polystyrene Microparticle Surface Based on Zeta Potential Change., Anal. Chem. 2022, 94, 6304-6310. [Supplementary Cover]
2.A. Miyagawa*, Y. Ueda*, K. Hagiya, S. Nagatomo, K. Nakatani, Two-Step Modification of Proteins onto Microparticle Surface Using DMT-MM Condensation Agent., Bull. Chem. Soc. Jpn. 2023, 96, 95-97.
3.A. Miyagawa*, K. Hagiya, S. Nagatomo, K. Nakatani, Protein Adsorption on Carboxy-Functionalized Microparticles Revealed by Zeta Potential and Absorption Spectroscopy Measurements., Bull. Chem. Sco. Jpn. 2023, 96, 759-765.

細孔性濃縮反応場を利用した微量計測

細孔性シリカ粒子を有機分子中に入れると、有機分子はシリカ粒子内に吸着する。このときの濃縮倍率は数十から数百倍にまでなるため、シリカ粒子の細孔内は濃縮反応場であると考えることができる。
この濃縮反応場を利用した一粒子微量計測法を開発することを目指している。
細孔性粒子にHRP(西洋わさびペルオキシダーゼ)を数百倍の濃度で濃縮させ、過酸化水素とHRPによるamplex redの酸化還元反応を利用し、過酸化水素の計測を行った。過酸化水素濃度に依存し、粒子内の蛍光強度変化が変化し、980 nMレベルでの計測が可能であることを示した。この時の粒子内のamplex redの分子挙動は拡散方程式を用いて説明できることを示し、一粒子計測手法を確立させた。
1.A. Miyagawa*, K. Nakatani, Kinetic Detection of Hydrogen Peroxide in Single Horseradish Peroxidase-Concentrated Silica Particle Using Confocal Fluorescence Microspectroscopy., Talanta 2024, 273, 125925.

所在地

筑波大学 数理物質科学系 化学域 中谷研究室
茨城県つくば市天王台1-1-1
研究基盤総合センター分析部門
(中谷教授・長友講師)
理科系C棟402 (宮川助教)