研究概要

はじめに:四重鎖核酸・光線力学療法


四重鎖核酸:DNAの二重らせん構造はよく知られています。一方DNA・RNAは四重鎖構造をとることがあり、これらは老化やがんなど多くの生命イベントに深く関与していることが分かっています。特に最近、四重鎖核酸とがんの関連が明らかになりつつありますが、分子レベルでは分からない点も多く、さらなる研究が必要です。

光線力学療法:がんの治療法の一つに、光線力学療法(Photodynamic therapy, PDT)があります。PDTではまず薬剤として光増感剤を体内に取り込ませ、がん組織に蓄積させます。次にがん組織への光照射で光増感剤にエネルギーを与えると、そのエネルギーががん組織内の溶存酸素に移動します。エネルギーを得た酸素分子が活性酸素となり、がん細胞にダメージを与えます。



酵素としての四重鎖核酸


四重鎖核酸はNa+やK+などのカチオン存在下で、4つのグアニンが水素結合によりG-カルテットと呼ばれる平面構造を形成し、G-カルテット同士が互いにπ-πスタッキング相互作用で積み重なることで、水中で安定に存在します。G-カルテット平面近傍の空間は疎水的であるため、他の疎水的かつ平面性の高い大きなπ平面を持つ分子(ポルフィリン、フタロシアニン、テロメスタチンなど)と結合します。

様々な四重鎖核酸のG-カルテット部位に鉄ポルフィリン錯体であるHemeが結合すると、Hemeがもつ酸化触媒活性が増大することが分かりました。四重鎖核酸とHemeは、共に生命誕生以前から存在していた可能性のある分子ですから、もしかしたら四重鎖核酸-Heme複合体は、「生命を作るための酵素」の一つとして機能していたかも知れません。

また四重鎖核酸は、ポルフィリン類への中心金属挿入反応の触媒機能も持っています。今後も四重鎖核酸がもつ触媒機能が次々と解明されるかも知れません。このように四重鎖核酸は、遺伝子としてだけでなく、核酸酵素の母体として働く可能性があります。



低酸素領域で機能する光線力学療法用分子の開発


増殖の速いがん組織では、血管形成が追い付かず、血液が十分に行き届かないため、酸素運搬が不十分となり、酸素の濃度が低い「低酸素領域」が形成されることがあります。PDTの治療メカニズムでは、活性酸素経由でのがんの抑制が主流ですから、十分な濃度の酸素が必要です。したがって、酸素濃度の低い低酸素領域ではPDTの治療効果が落ちてしまいます。そこで我々は「活性酸素を経由しないPDT」を行うための光増感剤を開発することを目的とし、研究を行っています。



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2022.8.10 更新