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研究概要

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双安定性分子は2つの安定状態をもち、温度・光・圧力・ホスト-ゲスト相互作用などの外場によってそれらの相間をスイッチできる分子です。そのため、双安定性分子は分子スイッチやメモリー材料としての応用が期待されており、高い注目を集めています。スピンクロスオーバーや電子移動が可能な分子ユニットは有望な構築素子のひとつです。異なる双安定性を示すユニットが複合化した複合系は、多段階相転移や準安定相への選択的励起などの相乗現象を示す多重双安定スイッチング分子として機能することが期待されます。

スピンクロスオーバー錯体は、適切な刺激を与えたときに高スピンと低スピンの電子配置間を相互変換できる双安定性分子です。我々は、近年[FeII4]グリッド分子とその2電子酸化体[FeII2FeIII2] を合成しました。この[FeII4]グリッド分子は多段階熱誘起スピンクロスオーバーを示し、混合原子価[FeII2FeIII2]グリッドは室温以上で熱誘起スピンクロスオーバーを示すことが磁化率測定から明らかとなりました。この[FeII4]グリッド分子に緑および赤色光照射を行うと、準安定状態(4HS)に励起されるのに対し、混合原子価[FeII2FeIII2] グリッド分子ではFe(II)とFe(III)部分が照射光に応じて選択的に励起でき、部位選択的な光誘起スピンクロスオーバー現象を初めて実現しました。

シアン化物イオン架橋混合原子価Fe-Co錯体系では、電子移動に伴うスピン転移現象(Electron-Transfer-Coupled Spin Transition = ETCST)によって、熱および光誘起磁性変換がおこることが知られています。高温相(HT相)ではS = 1/2 + 3/2の常磁性(FeIIILS-CoIIHS)ですが、サンプルを冷やすとコバルトイオンから鉄イオンへ電子移動が起こり、反磁性(FeIILS-CoIIILS)の低温相(LT相)に変わります。我々は[Fe2Co2]スクエア型錯体において、この現象を見出し、分子間の弾性相互作用によって2段階のHT-LT相転移が起こることを報告しています。J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 3592-3600. DOI:10.1021/ja109721

我々は[Fe2Co2]スクエア型錯体にさらに2つのFe(III)ユニットが連結した化合物も報告しています。この錯体は熱誘起ETCSTに加えて、光誘起ETCSTによって準安定HT*状態をとります。この低温相(LT相)では隣接常磁性中心間に強磁性的相互作用が働き、単分子磁石として振る舞うことを見出しました。これは孤立分子系で初めての光誘起単分子磁石の報告例です。Angew. Chem., Int. Ed. 2012, 51, 6361-6364. DOI:10.1002/anie.201202225

複合機能が観測されるもう一つの例として、シアン架橋[FeCo]一次元鎖錯体を報告しています。この化合物はヒステリシスを伴う熱的ETCSTおよび低温での光誘起ETCSTを示し、HT*相では単一次元鎖磁石として振る舞います。電気伝導度と誘電率は熱的ETCSTに伴って急激に変化し、高温相では半導体、低温相では絶縁体となることが分かっています。このような多重物性スイッチングシステムにおける相乗物性の発現は、近未来分子テクノロジーにおける多重安定分子素子の開発に資する重要な成果です。Nat. Chem. 2012, 4, 921-926. DOI:10.1038/NCHEM.1455



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