H4DPP2+の電子受容性を利用して、光触媒反応の開発を行っている。まず、水溶性H4DPP2+誘導体を光増感剤とし、ルテニウム置換ケギン型ヘテロポリ酸(RuPOM)を酸化触媒とする、水溶液中での有機基質の酸化反応を開発した。この触媒系では、水溶性H4DPP2+誘導体とRuPOMとの間で2:1の超分子形成が起こり、かつ酸化剤であるS2O82–が水溶性H4DPP2+誘導体と会合する。このため、RuPOMから水溶性H4DPP2+誘導体の励起1重項状態への光誘起電子移動が進行した後、還元されたポルフィリンからポルフィリンに会合しているS2O82–に電子移動が起こり、酸化活性種が生成して、基質酸化反応が進行する。(Green Chem. 2018, 20, 1975)


H4DPP2+を光増感剤とする水溶液中での光触媒的基質酸化反応

 H4DPP2+は、酸素の高選択的2電子/2プロトン還元による過酸化水素生成の触媒として機能する。まず、アクリダンを還元剤として、H4DPP2+及びプロトン存在下で可視光照射すると、酸素が選択的に過酸化水素に還元される。この反応の量子収率は12%であり、触媒回転頻度(TOF)は500 h–1である。この光触媒反応においては、H4DPP2+の励起3重項状態が通常の平面型ポルフィリンのそれよりもエネルギーが低く、酸素へのエネルギー移動よりも電子源からの光誘起電子移動が優先的に進行することが重要である。(Chem. Commun. 2019, 55, 4925)

H4DPP2+を光触媒とする可視光照射による酸素還元による過酸化水素の生成


 一方、H4DPP2+を光増感剤として、アクリダン(AcrH2)を電子源、白金ナノ粒子を触媒とする光水素発生系の構築を行った。この触媒系では、710 nmの近赤外光照射下において、量子収率17%で水素発生反応が進行する。本光水素発生の律速段階は、AcrH2から励起3重項状態のH4DPP2+への光誘起電子移動であることがわかった。(ACS Appl. Energy Mater. 2020, )

H4DPP2+を光増感剤とする近赤外光を用いた高効率な光水素発生系

 一方、2つのピロール窒素にメチル基を導入したDPP誘導体(Me2DPP)は、プロトン源及び電子源存在下で、熱的な電子移動によるイソフロリン中間体を経由して、酸素の2電子還元による過酸化水素生成を触媒する。この触媒反応では、メチル基を導入する位置によって、その反応機構が劇的に変化する。Syn型の場合、2つのピロールプロトンが同じ方向に向いたイソフロリン中間体が酸素分子と2点水素結合を形成し、酸素の還元反応が進行する。それに対し、anti型の場合、ピロールプロトンは1点で酸素と水素結合を形成して反応が進行する。酸素還元反応の速度論的解析により、それぞれの場合で反応の律速段階が異なることがわかった。(Chem. Eur. J. 2020, 26, 10480 (Very Important Paper))